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紙は環境にやさしい?"必要な分だけ、気持ちよく使う"

「紙は環境に良いのか、悪いのか」──この問いに対する答えは、実はとても複雑です。例えば、紙産業に関わる人はその環境配慮の努力を強調し「環境にやさしい」と主張します。一方で、プラスチック産業の立場に立てば、紙の製造や輸送に伴う環境負荷を強調し、「むしろ環境に悪い」と見ることもあるでしょう。このように、立場によって評価が大きく分かれてしまうことが、読者にとって紙と環境の関係が見えづらくなる要因ではないでしょうか。

私たちは、特定の業界の擁護に偏らず、フラットでニュートラルな視点を大切にしています。だからこそ、この記事では紙の“悪い面”にもきちんと目を向けながら、それでもなお私たちが紙に感じている“やさしさ”や“可能性”についても、お伝えしていきたいと考えています。

この記事では、紙と環境についての現状を踏まえたうえで、私たちPAPER Entranceの考えをお伝えします。

紙が環境に与える“負の影響”

まず、紙が環境にとって悪いとされる側面を、具体的に見ていきましょう。

製造時に使われるエネルギー

 製紙工場では、膨大なエネルギーが必要となります。特にパルプを漂白・乾燥させる工程では、高温を維持するための熱源として石炭や重油が使われることが多く、結果として温室効果ガスの排出量が大きくなります。

水資源の使用と排水

 紙の製造工程では大量の水が使われます。近年では排水処理技術が進んでいるとはいえ、水質汚染への懸念はゼロではありません。

輸送にともなう環境負荷

 紙は重量があり、輸送効率が決して良いとは言えません。流通過程でトラックや船舶が使用する化石燃料により、二酸化炭素の排出が発生します。再生紙をつくるための古紙回収においても、同様の物流が必要となるため、エネルギー消費は避けられません。

過剰な消費が招く大量廃棄

 安価で入手しやすいがゆえに、紙は無意識に使いすぎてしまう傾向があります。その結果、読み捨てられた印刷物や過剰包装された紙製品が大量に廃棄される現状も見逃せません。

これらの点を踏まえると、「紙=環境に優しい」と単純に結論づけることはできません。

それでも、紙は“やさしさ”を持つ素材です

では次に、紙が持つ環境へのポジティブな側面についてご紹介します。私たちは、これらの特徴こそ、紙が“人と地球にやさしい”素材であると考える理由です。

再生可能エネルギーの活用(黒液ボイラー)

 パルプ製造時に出る副産物「黒液」は、木材から抽出されたリグニンなどを含み、高いエネルギーを持つバイオマス燃料です。多くの製紙会社ではこの黒液を燃焼して蒸気や電力を自家発電し、工場内のエネルギー源として再利用しています。これにより化石燃料の使用を大幅に削減する取り組みが進んでいます。

古紙回収率の高さとリサイクル体制

 日本は古紙回収率が80%を超える、世界有数のリサイクル先進国です。使用済みの新聞紙、段ボール、オフィス用紙などが分別回収され、再び原料として使われる循環型の仕組みが整っています。再生紙の技術も年々進化し、白色度や強度の面でも品質が高く、多様な用途に対応可能です。

計画的な植林と森林管理

 国内外の製紙会社は、木材資源の持続可能な活用を重視し、伐採と植林をセットで行う「持続可能な林業」に取り組んでいます。使用される木材は、適切に管理された植林地や森林認証(FSC、PEFCなど)を受けたエリアから供給されており、天然林の乱伐とは一線を画しています。

生分解性と自然への回帰性

 プラスチックと違い、紙は土中に戻ると自然に分解されやすい素材です。焼却しても有害物質をほとんど出さず、また自然素材であるがゆえに廃棄時の環境負荷が低い点も見逃せません。

森林資源の循環についての意識

先日、仕入先である大手製紙メーカーの方が、こんな印象的な言葉を話してくれました。

「製紙会社の仕事は、農業や酪農・畜産業のようなものだ」

動植物を育て、乳や肉、卵といった命の恵みをいただき、また育て繋いでいく農業のように、製紙会社も森林を育て、その恵みを紙や燃料へと変換し、また森林を育てていく。そんな循環を意識にしているのだといいます。

人が生きる以上、他の生命のエネルギーをいただくことは避けられません。だからこそ、食に関わる人が食品ロスや過剰生産に配慮するように、製紙会社も「使う量」と「育つ量」のバランスを重視しています。また、紙の製造から消費までに排出される二酸化炭素と、植林によって生み出される酸素のバランスにも、真摯に向き合っています。

このように、紙の生産・使用・廃棄の各段階には、環境への配慮と再生可能性が息づいています。

紙とプラスチック──比較から見える環境負荷の“質”

紙とよく比較される素材に、プラスチックがあります。この両者は、環境に与える影響の「質」が異なる点が大きな特徴です。

プラスチックは石油を原料とし、分解に非常に長い時間がかかるため、マイクロプラスチックとして海洋に残留するなど、深刻な環境課題を引き起こしています。一度環境中に放出されると、回収や処理が非常に困難で、海洋生物への影響も広く懸念されています。

一方、紙は再生可能資源である木を原料とし、計画的な植林やリサイクルの仕組みが整っていれば、持続可能な循環を構築できます。加えて、生分解性が高く、土壌や水環境に自然に還るという特性を持っています。

ただし、紙にも課題があります。製造時には多くのエネルギーと水資源が必要であり、重くかさばるため輸送時の環境負荷も大きくなりがちです。また、「脱プラスチック」として紙製品に置き換える動きが過剰になると、それ自体が新たな環境負荷を生むジレンマも抱えています。

このように、「どちらが絶対に環境に良い・悪い」とは言い切れませんが、『紙は工夫次第で環境にやさしい素材になり得る』という点に希望があります。

そして、その“工夫”の鍵は、紙の使い方にあると私たちは考えています。必要な分だけを、気持ちよく、無駄なく使う──それこそが、紙を持続可能な素材として生かす最良の方法ではないでしょうか。

私たちの立場──“必要な分を、気持ちよく使う”

私たちは、紙を販売する立場にありながらも、「紙を無駄に使ってほしい」とは思っていません。紙は便利で温かみのある素材ですが、必要以上の大量消費は、環境にも人の心にも優しくないと考えます。

現代は、デジタル技術の進展により、コピー用紙や新聞紙などの使用量が大幅に減少しました。大量生産・大量消費の時代は終わり、「本当に必要な分を、丁寧に使う」時代に変わりつつあります。

それは紙の流通に関わる者としては、経済的には厳しい面もあるかもしれません。でも、紙という素材が、環境や人の暮らしとよりよい関係を築くための変化であるならば、私たちはその流れに寄り添いたいと思うのです。

私たちが目指すのは、「必要な分を、気持ちよく使う」という紙とのつきあい方。その考え方を軸に、紙の魅力を再発見し、よりよい未来につなげていきたいと願っています。

PAPER Entranceのこれから

PAPER Entranceでは、こうした時代の流れに合わせ、「必要な分だけ、気持ちよく使える紙」を届けることを目指しています。

たとえば──

  • 小ロットで使い切りやすい分量にパッケージ
  • 加工しやすく、日常に取り入れやすいサイズや形にカット
  • 手に取ったときに「気持ちいい」と感じられるような、質感や用途を大切に

環境に配慮した素材であることはもちろん、「心にもやさしい紙」を選び、提案していきたいと考えています。

なお、この記事は、紙と環境の関係について、PAPER Entranceとしての基本的な立場や全体像をまとめた“総論”です。今後は本記事を土台として、「紙の環境に悪い点」「紙の環境に良い点」それぞれをより掘り下げ、詳しくお伝えする記事もシリーズとして展開していく予定です。

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